台湾原住民族アートを巡る2つの注目展示:屏東 × 大阪
台湾には、多くの原住民族(先住民族)が暮らしており、それぞれが独自の歴史・言語・工芸・信仰世界を持っています。
今回は、そんな台湾原住民族の文化や表現に光を当てる2つの展示、屏東(台湾南部)で行われている文物展示と、大阪・国立民族学博物館で開催中の現代アート展をご紹介します。
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それでは早速見ていきましょう。
屏東で開催:スウェーデン所蔵の台湾原住民族文物が里帰り展示
まずご紹介するのは、台湾南部・屏東県獅子郷の「内獅村文物陳列館」で行われている、スウェーデンの博物館所蔵の文物展示です。
日本統治時代に行われた「台湾有用植物調査」の際に採集とともに持ち出され、長年海外で保管されてきた品々が、現地に「里帰り」する形で公開されています。
展示の概要
・会場:屏東県獅子郷・内獅村文物陳列館
・会期:2025年10月1日〜2026年3月31日
・関連民族:主にパイワン族を中心とした台湾原住民族
・展示点数:礼服・装飾具・日用品・儀式用具など、計48点
・情報元:
Focus Taiwan 日本語版
https://japan.focustaiwan.tw/culture/202510030001
どんな文物が展示されている?
展示されているのは、パイワン族の頭目に贈られたとされる竹製の扇子、
繊細な金属細工が施された耳飾り、手織りの衣服や帯、儀式に用いられた道具など、暮らしと信仰が息づく品々です。
植物採集と同時に収集された背景を持つ文物も多く、
「植物」「生活道具」「儀礼」がどのようにつながっていたかを感じられる展示構成になっています。
展示の意義:植民地期コレクションをどう向き合い直すか
この展示には、単なる「昔の貴重なものの公開」という以上の意味があります。
・日本統治時代の調査で持ち出された文物が、約1世紀を経て再び集落に戻ってきたこと
・海外の博物館と台湾の原住民族コミュニティが協力し、文物を「共同で管理・公開」していること
・若い世代が、自分たちの伝統技術や祖先の美意識を知るきっかけになること
欧州の博物館では近年、植民地時代に持ち出された文物をめぐる「返還」や「共同管理」の議論が進んでいます。
今回の屏東での展示は、その流れの中で生まれた、ひとつの具体的な事例と言えるでしょう。
屏東を訪れるなら、こんな楽しみ方も
・高雄や屏東市と合わせて、原住民族集落めぐりの1日(または泊まりがけ)コースを組む
・文物展示だけでなく、現地の手工芸品や料理、景観もまとめて体験する
・旅の前に、パイワン族や屏東の原住民族文化について簡単に予習しておく
「ただ見る」ではなく、「どんな時代背景でここに戻ってきた文物なのか」という視点を持って訪れると、展示の見え方がぐっと変わります。
大阪で開催:「フォルモサ∞アート 台湾の原住民族芸術の現在(いま)」
続いてご紹介するのは、日本国内で台湾原住民族アートに触れられる展覧会、
「フォルモサ∞アート 台湾の原住民族芸術の現在(いま)」です。
会場は大阪・吹田市にある国立民族学博物館(通称:民博)。
台湾・台北市の「順益台湾原住民族博物館」との共催で、
原住民族出身アーティストたちの「今この瞬間の表現」が集まっています。
展示の概要
・会場:国立民族学博物館(大阪府吹田市/万博記念公園内)
・会期:〜2025年12月16日まで
・出展作家:台湾原住民族出身の芸術家 12人
・主催:国立民族学博物館・順益台湾原住民族博物館 ほか
・情報元:
Focus Taiwan 日本語版コラム
https://japan.focustaiwan.tw/column/202510085001
「∞(インフィニティ)」が意味するもの
展覧会タイトルにある「フォルモサ∞アート」の「∞」には、
さまざまな「つながり」へのイメージが込められています。
・過去と現在、そして未来へと続く時間軸のつながり
・台湾の山や海といった自然環境と、人々の生活・信仰とのつながり
・台湾ローカルと、世界のアートシーンとのつながり
展覧会のサブタイトルにある「現在(いま)」という言葉もポイントです。
原住民族のアートは、「昔の民族芸術」ではなく、
今を生きるアーティストたちの表現として、アップデートされ続けていることが強調されています。
作品に込められたテーマ
出展作家たちの作品には、次のようなテーマが色濃く反映されています。
・民族の記憶やアイデンティティの模索
・山・海・土地との関係性、自然との共生
・伝統文化の喪失への危機感と、その再生への願い
・環境破壊や社会的格差といったグローバルな課題への問いかけ
一見すると「台湾のローカルな話」に見えるテーマも、
現代社会全体が向き合うべき問題と地続きであることが、作品を通して伝わってきます。
関連イベント・アクセス
会期中には、台湾原住民族アートの歴史や背景を解説する講座・トークイベントも予定されています。
大阪・京都・神戸など関西圏からアクセスしやすい立地なので、
台湾や原住民族文化に興味のある方はもちろん、
「現代アートとしての台湾」を体験してみたい方にもおすすめです。
2つの展示から見えてくる「台湾原住民族アート」の今
過去の文物 × 現在の表現
屏東での文物展示と、大阪での現代アート展。
一見まったく別の展示に見えますが、並べてみると共通点と対照点が浮かび上がってきます。
・屏東:植民地期に海外へ渡った文物の「里帰り」展示。過去に焦点を当てつつ、未来の若者に継承する取り組み。
・大阪:原住民族出身アーティストの「今この瞬間」の表現。伝統を踏まえながら、世界へ向けて発信する現代アート。
片方は「祖先が残したもの」に光を当て、
もう片方は「今を生きる人たちの声」をアートとして可視化している、とも言えます。
ローカルからグローバルへ
もうひとつのポイントは、ローカルとグローバルの接点です。
・屏東の展示では、スウェーデンの博物館と台湾の集落が共同で文物を紹介。
・大阪の展示では、台湾の原住民族アートが日本の博物館空間に持ち込まれています。
いずれも、台湾国内の枠を超えて、世界とつながる場がつくられているのが印象的です。
原住民族のアートや文物は、「特定の民族だけのもの」ではなく、
私たち全員が向き合うべき歴史や環境、社会の問題を映し出す鏡でもある——。
今回の2つの展示は、そんなことを静かに語りかけているように感じられます。
台湾原住民族アートに出会ってみませんか?
台湾が好きな方にとって、原住民族の文化やアートは、まだまだ知られていない魅力の宝庫です。
台湾旅行の際に屏東の展示を訪れてみるのも良いですし、
まずは大阪で開催されている「フォルモサ∞アート」に足を運んでみるのもおすすめです。
・屏東・内獅村での文物展示(Focus Taiwan 日本語版)
https://japan.focustaiwan.tw/culture/202510030001
・「フォルモサ∞アート 台湾の原住民族芸術の現在(いま)」紹介コラム(Focus Taiwan 日本語版)
https://japan.focustaiwan.tw/column/202510085001
この記事が、台湾原住民族の世界に一歩踏み込むきっかけになればうれしいです。

